電書03大森望×岸本佐知子×豊崎由美『石膏像と同じものをコンニャクでつくれるか!?』

「ええ!? こんなすごい原稿があるんだ」
というのが、石井千湖さんから、この原稿を見せられたときのぼくの第一声。

 大森望×岸本佐知子×豊崎由美の座談会原稿である。
 この布陣。メンバーの凄さを解説するのも野暮だろう。翻訳小説を読む者なら知っているだろうから、もう説明しないで話すすめちゃうよ。
 
 っても、豪華メンバーの座談会だからという理由で電書化するわけじゃない。他にも理由がある。

 まず、座談会の内容がすごい。翻訳に関するディープな対話で、言葉や翻訳や小説に興味ある人にぜひ読んでもらいたい内容である。

 もうひとつ。原稿が、複数バージョン存在する。
 座談会は、2004年に「豊崎由美の年収600 万円の万能ライター」講座の授業内でひらかれたもの。受講生には座談会をテキスト化するという課題が出された。最終的に選ばれたのは、北村浩子が構成/文を担当したテキストであった。
 惜しくも2 位になったのは、現在ライター/ブックレビュアーとして活躍中の石井千湖。
 電書版は、そのどこにも発表されることのなかった石井千湖バージョン。
 なのだが、惜しくも2 位になった残念バージョンを掲載するわけではない。
 石井千湖は、第一稿が北村浩子バージョンに破れた後、講師の豊崎由美から添削指導されたものを改稿し再提出。講師からも、これなら掲載OKだと評価される。
 その後、彼女がプロとして活躍するようになったのは、このリトライする不屈の精神があったからだろう。
 というわけで、電書には、改稿バージョンと改稿前バージョンを同時掲載。読み較べることで「座談会のテキストが、構成/文によってどのくらい変わるのか」ということも感じ取ってもらえるはずだ。
 海外文学、翻訳、座談会の構成、人の声を文字にすること、言葉…… そういったことに興味がある人、、必読。
 翻訳家やライターになりたい人、必読。

追記。
「これだけで100円って高くないですか?」と大森望さんから返信がきた。
 電書は文字数や分量じゃなくて、テーマや中身の値段だからだいじょうぶと思っていたけれど、大森さんに言われると不安になる。
 そこで、石井千湖さんに改稿する状況や、どのような考えで改稿したのかという内容の原稿を加えませんかと相談してみた。快諾していただき石井千湖「耳がいいライターになりたい」という原稿が加わった。座談会テキストがさらに立体的に読めるテキスト群になった。
 さらに、
“余談です。『特盛! SF翻訳講座』の「小説の翻訳「きほんのき」」も、この電子書籍に掲載できれば!というアイデアも考えました。”と大森さんのメールにチラと書いたところ、
“オマケとして収録して頂いてもかまいません”
という返信と共にテキストデータが送られてきた。
 大森望『特盛! SF翻訳講座 翻訳のウラ技、業界のウラ話』(研究社)は、SF好き、翻訳小説好き、言葉好き、どれかに該当する人なら、ぜひとも読んでほしい一冊。
 そこに掲載されていて、この座談会についても触れられており、内容も大きく関連している大森望さんのテキスト「小説の翻訳「きほんのき」」「翻訳家になるには——または、わたしはいかにしてSF翻訳者になったか」が、さらにこの電書に加わった。
 このやりとりをしている間、次々と仲間が増えていくRPGの序盤をプレイしているような興奮を感じた。
 ぼくは、いまでも最初の内容だって100円以上の価値があると思ってる。けれど、もはや、内容分量(kindleバージョンでいま96ページだ)ともに「こんなに充実してて100円って安くないですか?」になったはずだ。
 
以上、担当米光でした。
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