電書02杉江松恋『チミの犠牲はムダにしない! 〈完全版〉』

『チミの犠牲はムダにしない! 〈完全版〉』杉江松恋氏が19冊の本をレビューする電書だ。5月23日文学フリマのI-18「電子書籍部」ブースで購入できる。

杉江氏の名をみて「ああ、ミステリの書評集ね」と思った方、いるだろう。いるよね。しかし本書で取り上げられる本には一冊もミステリはない。それどころか小説すらないのだ。『ナポリタン』(上野玲)、『3P(トリオリズム)』(叶恭子)、『悪趣味ゲーム紀行』(がっぷ獅子丸)、『100%ぶっちぎり体脂肪!』(腹肉ツヤ子)、『試みの地平線』(北方謙三)等々。これでもまだミステリの書評だと勘違いするひとのために(いないだろうけど)、『これが俺の芸風だ!!』(上島竜平)レビューの書き出しを引用しておこう。誤解が解けるはずだ。

できるなら、君の子供を産んでみたい」と名曲「オンリーユー」で歌ったのは田口トモロヲだ。そして「できるなら、君のウンコを食ってみたい」と願ったのはダチョウ倶楽部上島竜兵だ。

もちろん、中身も充実している。レビューとしてのクオリティは当然だが、それをここで語るには紙幅が足りない。数字で示しておこう。本一冊のレビューは、4000字程度。そして 400字ときには1000字にわたる「本書のお買い得度」。さらに今回の電書化にあたって追加された「チミのおまけもムダにしない!」が800字からそれ以上。これが、19冊分。

『チミの犠牲はムダにしない!』は、もともとゲッツ板谷WEB (http://www.getsitaya.com/) に2005年から連載されたものだ。今でも読むことはできる。しかし「チミのおまけもムダにしない!」のコーナーは、〈完全版〉であるこの電書でしか読めない。オリジナルが書かれてから4,5年経ったいま、別の観点から同じテーマを語る。当時の状況をかたりつつ本を選んだ意図を説明する。あるいは、少しだけ関係あるようなぜんぜん違うような話題を語る。しかしどれも、たった今読んだレビューを、より豊かなものにしてくれる。たとえば、『ベルマークの秘密』(高井ジロル)レビューの「おまけ」は、こうはじまる。

 この原稿を書いた二〇〇六年時点ではまったく予想もしていなかったことだが、私は子供の通う小学校のPTA会長になってしまった。上で書いている、「ベルマークを集める」団体の長になったわけである。せっかくなのでPTA活動におけるベルマーク収集のやり方をご披露しておこう。

どうだ。って私がいばることではないのだが。

最後に「まえがき」から、大事な文章を引用しておこう。

以下に掲載する十九の書評は、ミステリーという専門畑から出発したライターが、ゲッツ板谷というサブカルチャー界の金看板にタイマンを挑んだ闘いの記録である。もちろんゲッツさんの向こうには、一般読者というもっと大きな対戦相手がいる。私の闘いの結果がどうなったか。勝ったのか負けたのか。それはお読みになったみなさんに下していただきたい。もしおもしろかったと感じる人がいたら、ここに挙げた本の一冊でも買ってみてください。それが書評家としてはいちばん嬉しいことです。

以上、担当のこじまでした。


著者紹介 杉江松恋(すぎえ・まつこい) 1968年東京都生まれ。ライター・書評家。
その名の響きから女性だと思っている方もときにいるようだが、実物は坊主頭にシャネルのサングラスをかけた大男で、ちょっと恐ろしい。でも実はPTA会長で実は子供に大人気で実はやさしい目をしている。ミステリに限らず、エンタテインメント一般への愛と知識は幅広くそして深い。活動範囲はそこにとどまらず、たとえば巨大地下建造物写真集・「トウキョウ・アンダー」を手がけている。最近ではなんと、同人ゲーム「東方Project」好きがこうじて、NHK BSの特集番組での対談にまで出演しているのだ。彼の仕事の全貌を、つかんでいる人はいるのだろうか。
電子書籍部入門