電書11*「五百−とても短い数多くの物語」

「五百−とても短い数多くの物語」はすごーく日常的なシーンから始まる話が多い。まるで身辺日記かブログのまとめかと思ってしまうかもしれない。だからひとつ引用してみる。短いから丸々引用できるんだ。第四十九話の「消失」。

 

街を歩いていて、マンホールの蓋が空いたままになっているのに気づいた。蓋は盗まれてしまったのだろうか。
 ふだんなら一番先に落下していてもおかしくないのだが、今日はたまたま足下を見ながら歩いていたために、ぶじ通り過ぎることができた。
 後ろを振り返ってみる。
 マンガを読みながら小学生が歩いてきた。
 「あっ、あぶないっ」
 と叫んだときには、小学生の姿はもう消えていた。
 落ちたのではなく、飛び上がっていったのだ。
 私はしばらく、青い青い蒼穹を眺めていた。
 小学生の姿は豆粒のようになって消えた。